ケトルが白く湯気を吐く。
新参者はキッチンに不似合いな真新しい装いで、
汚れの目立つ古びた鍋が恨めしそうにケトルを眺めた。
ガーデンのプリンセスのドレスは若草色で、
金糸のような髪の花を咲かせている。
愛くるしい一輪に促されたように、
荒廃していたバラ園が息を吹き返して踊りだした。
ご所望のショートケーキには大きな苺を一つと、
メッセージを添えたチョコレート。
甘くて、甘くて、とろけて落ちる昨日までの日々には、
少し酸味のきいた思い出を添えて。
苦くて、苦くて、涙を落とすようなこれからの日々は、
ほろ苦いビターの香りでいっぱいにして。
愛しいプリンセスは、夢に染まる可愛らしい少女で、
だけど、夢の終わりを見てしまった儚さ溢れている。
申し訳程度にすえつけられた真っ白な円卓から、
未だにろくでもない夢を見ているのか、
それとも少女の稚拙な夢よりも、もっともっとろくでもない現実を見ているのか、
円卓の茨のレリーフをなぞりながらの思案顔。
若草色のプリンセスは、甘く、と囁いたけれど、
今日のダージリンは彼女のためにほろ苦く仕立てよう。
お湯を注いだ途端に慌てて始まるダンスパーティーは、
透明なティーポットに切ない夕焼けの色を映し出しながら、夜の訪れを待っている。
駆け出しそうな足を押さえて、
夜へ、
夜へ、
ゆっくりと足を進める。
プリンセスのティータイムには、子供の甘味と大人の苦味を織り交ぜて、少し離れて手招きをしよう。
"Happy birthday"